BUCK-TICK『或いはアナーキー』(2014)

01. DADA DISCO - G J T H B K H T D -
02. 宇宙サーカス
03. masQue
04. Devil'N Angel
05. ボードレールで眠れない
06. メランコリア
07. PHANTOM VOLTAIRE
08. SURVIVAL DANCE
09. サタン
10. NOT FOUND
11. 世界は闇で満ちている
12. ONCE UPON A TIME
13. 無題
14. 形而上 流星 -metaform-

作詞 01、04、05、10〜12:今井寿 / 02、03、06〜09、13、14:櫻井敦司
作曲 01、03〜07、10〜14:今井寿 / 02、08、09:星野英彦


DISC 2 (初回限定盤B Blu-ray / 初回限定盤C DVD 共通)
形而上 流星 (MUSIC VIDEO)

Director & Camera:EHARA SHINTARO

発売日:2014/06/04
品番:TKCA-74111 (初回限定盤B)

Members
Vocal:櫻井敦司
Guitars、Electoronics、Chorus and Vox:今井寿
Guitars and Chorus:星野英彦
Bass:樋口豊
Drums:ヤガミ・トール

Manipulate & Synthesizer (01、03〜05、07、10〜13):YOKOYAMA KAZUTOSHI
Programming (01):HAYASHI HIROYUKI [POLYSICS]
Manipulate & Synthesizer (02、06):YOW-ROW [GARI]
Synth Manipulate (08、14):Cube Juice
Programming (09):MIYO KEN
Piano (11):KEN MORIOKA


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2014年にリリースされた、BUCK-TICKの19thアルバム。
CDのみの通常版の他、LPサイズジャケット・「形而上 流星」MV収録映像ディスク・グッズ等が付いた初回限定盤A、MVディスクのみ付属の初回限定版B(Blue-ray)/C(DVD)がありますが(B・Cの収録内容は同一)、筆者の手元にあるのは限定版Bになります。

アルバム冒頭の「DADA DISCO - G J T H B K H T D -」から、ピコピコとした打ち込みを全面に出したカラッとしたアレンジに、まずインパクトを与えられる(2012年のトリビュート盤に参加したPOLYSICSのハヤシヒロユキがプログラミングを担当)。櫻井・今井による細かく刻まれる掛け合いや、それに乗せた実在の芸術家の名や彼らにちなんだ単語が散りばめられた歌詞も手伝い、この曲自体がコラージュで出来ているような感覚も受けます。

そんな強烈なオープニングを経て、スペーシーなアレンジを絡めた疾走感のある「宇宙サーカス」、硬質なリズムと(良い意味で)ヘロッとしたギターの対比が面白いダンサブルナンバー「Devil'N Angel」等は前作『夢見る宇宙』(2012)を、サイケで浮遊感のあるギターが気持ち良い「ボードレールで眠れない」は前々作『RAZZLE DAZZLE』(2010)を思い起こさせられます。また、「masQue」における、アコギとドラムの絡みは実にエロい(断言)。
個人的に、アルバム前半は曲幅を大きく取りつつも、聴き手を置いてけぼりにはしない、というような塩梅を感じます(制作側にそういう意図があったのかはさて置き)。

シングル版ではEDM色が強かった「メランコリア」は、デジタル要素は取り入れつつも、ダークで耽美な歌メロを味わうバンドサウンド寄りのアレンジになった印象(シングルに引き続き、GARI、SCHAFT(2015年再結成・今井さん参加)のYOW-ROWが打ち込みを担当)。かと思えば、アルバム折り返し地点にあたる「SURVIVAL DANCE」ではサンバアレンジで弾けてみたり。ホイッスルが挿入される間奏(正にサンバで想像されるアレ)や、「YOUはサバイバー」とぶっ込んでくる歌詞含め、最初聴いた際はかなり驚かされましたが、こういうライブで盛り上がりそうな曲自体は、前作に入っていてもおかしくないのかもと思わせられます。これは、耽美さとハードボイルドさを併せ持つポップナンバー「PHANTOM VOLTAIRE」、「サタン」の間に配された事も、インパクトを生むことに奏功しているのかもしれません。
翌年始動した、櫻井さんのプロジェクト:THE MORTALのメンバーにもなった三代堅がプログラミングで参加した「NOT FOUND」は、サイバーでシリアスなアレンジと、今井さん作詞によるレトロSFっぽさを感じさせる言葉選びが印象的。逆に、モータルっぽさはそこまで感じられないというのも、バンド毎の面白さが感じられます。

個人的に物凄く好きなのが、ここからラスト4曲の流れ。
先行シングル収録曲(「VICTIMS OF LOVE with黒色すみれ」)に引き続き、森岡賢がピアノで参加した「世界は闇で満ちている」は、そのピアノが前に出た、意外過ぎるほどにストレートなロッカバラード。曲タイトル発表の際は、どんなドス黒い曲が――と思っていたので、余計に驚かされた覚えがあります(実際、そういうタイトル且つそういう曲も沢山作ってますし)。そのタイトルが、歌詞内でどのような文脈で使われているかも含め、BUCK-TICK流の人生応援歌といった印象を持った方も多いのではないでしょうか。
「ONCE UPON A TIME」は、懐かしさを含んだメロディーが映える開けたポップナンバー。「NOT FOUND」とは曲調は異なるも、こちらもレトロSF・ファンタジーを想起させる歌詞と、切なくも爽やかなサビメロによって、ジュブナイル作品のテーマソングのような印象も受けます。曲調が似ているわけではありませんが、個人的には初期の楽曲「Angelic Conversation」が連想されました。

続く「無題」では、ドス黒いのはこちらですよ、と言わんばかりのダークな音使いとスローテンポなアレンジで落とし切る。同時に、重さだけでなく聴き手を引き込む凛とした印象も受けます。
ラスト曲にして、先行シングルタイトル曲のバージョン違いである「形而上 流星 -metaform-」は、1コーラス目はギターとノイズをメインにし、2コーラス目から盛り上げていく構成。単曲で取り上げるのであればシングルバージョンに軍配があがりますが、「無題」からの緩急及びアルバム全体の締めとして、アルバムでの大幅なアレンジ変更は正解だったと思っています。

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前作、前々作、あるいはゼロ年代後半からの流れを引き継いでいる曲もあったり、トリビュート盤や、翌年の櫻井・今井両氏の活動に関わるゲスト陣も居たりと、2010年代前半の変遷の全部入りといった構成とも言えるかも知れませんが、「DADA DISCO」でのインパクトや、終盤4曲を中心としたアルバムの流れによって、過去作とは大きく異なる味わいのある作品となった印象。
個人としてのお気に入り作品と、入門盤として勧めたい作品が必ずしも一致しない、ということはままありますが、本作はポップさの担保+バンドの色、楽曲の振れ幅+それらを散漫にさせないアルバムとしての流れ等が揃っており、両者の要素を兼ね備えた作品であるように思います。


試聴あり
或いはアナーキー(初回限定盤B)(Blu-ray Disc付)
BUCK-TICK
徳間ジャパンコミュニケーションズ
2014-06-04